森林法の罰則
第百九十七条 森林においてその産物(人工を加えたものを含む。)を窃取した者は、森林窃盗とし、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第百九十八条 森林窃盗が保安林の区域内において犯したものであるときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第百九十九条 森林窃盗の贓物を原料として木材、木炭その他の物品を製造した場合には、その物品は、森林窃盗の贓物とみなす。
第二百一条 森林窃盗の贓物を収受した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 森林窃盗の贓物の運搬、寄蔵、故買又は牙保をした者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第二百二条 他人の森林に放火した者は、二年以上の有期懲役に処する。
2 自己の森林に放火した者は、六月以上七年以下の懲役に処する。
3 前項の場合において、他人の森林に延焼したときは、六月以上十年以下の懲役に処する。
4 前二項の場合において、その森林が保安林であるときは、一年以上の有期懲役に処する。
第二百三条 火を失して他人の森林を焼燬した者は、五十万円以下の罰金に処する。
2 火を失して自己の森林を焼燬し、これによつて公共の危険を生じさせた者も前項と同様とする。
第二百四条 第百九十七条、第百九十八条及び第二百二条の未遂罪は、これを罰する。
第二百五条 第二十一条第一項又は第二十二条の規定に違反した者は、二十万円以下の罰金に処する。この場合において、その火入れをした森林が保安林であるときは、三十万円以下の罰金に処する。
2 第二十一条第一項又は第二十二条の規定に違反し、これによつて他人の森林を焼燬した者は、三十万円以下の罰金に処する。この場合において、その森林が保安林であるときは、五十万円以下の罰金に処する。
第二百六条 次の各号のいずれかに該当する者は、百五十万円以下の罰金に処する。
一 第十条の二第一項の規定に違反し、開発行為をした者
二 第十条の三の規定による命令に違反した者
三 第三十四条第一項(第四十四条において準用する場合を含む。)の規定に違反し、保安林又は保安施設地区の区域内の森林の立木を伐採した者
四 第三十四条第二項(第四十四条において準用する場合を含む。)の規定に違反し、立竹を伐採し、立木を損傷し、家畜を放牧し、下草、落葉若しくは落枝を採取し、又は土石若しくは樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為をした者
五 第三十八条の規定による命令に違反した者
第二百七条 次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
一 第十条の八第一項の規定に違反し、届出書の提出をしないで立木を伐採した者
二 第十条の九第三項又は第四項の規定による命令に違反した者
三 第三十一条(第四十四条において準用する場合を含む。)の規定による禁止命令に違反し、立木竹の伐採又は土石若しくは樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為をした者
四 第三十四条の二第一項(第四十四条において準用する場合を含む。)の規定に違反し、届出書の提出をしないで択伐による立木の伐採をした者
五 第三十四条の三第一項(第四十四条において準用する場合を含む。)の規定に違反し、届出書の提出をしないで間伐のため立木を伐採した者
第二百八条 第三十九条第一項又は第二項(これらの規定を第四十四条において準用する場合を含む。)の規定により設置した標識を移動し、汚損し、又は破壊した者は、五十万円以下の罰金に処する。
第二百九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第十条の八第二項又は第三十四条第九項(第四十四条において準用する場合を含む。)の規定に違反して、届出書の提出をしない者
二 第三十四条第八項(第四十四条において準用する場合を含む。)の規定に違反して、都道府県知事に届け出ない者
第二百十二条 第百九十七条若しくは第百九十八条の罪(これらの未遂罪を含む。)又は第二百一条の罪を犯した者には、情状により懲役刑及び罰金刑を併科することができる。
第二百十三条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、第二百五条から第二百九条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
第二百十四条 第十条の七の二第一項の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、十万円以下の過料に処する。
<蕃山違法伐採>社長を逮捕 森林法違反容疑
仙台市青葉区の蕃山(356メートル)で樹木が違法に伐採され、一部がはげ山状態になっている問題で、宮城県警生活環境課と大河原署は30日、森林法違反の疑いで、青葉区国分町1丁目の建設会社「青葉産業」社長沼田信容疑者(65)=太白区茂庭=を逮捕した。一連の問題で県警が立件に踏み切るケースは初めて。
逮捕容疑は2013年5月中旬~6月28日、青葉区茂庭の蕃山で、森林法に基づく届け出を仙台市にしないで約7ヘクタールの樹木を伐採した疑い。大河原署によると、沼田容疑者は「必要な届け出はしている」などと容疑を否認している。
県警は問題発覚後のことし7月中旬、青葉産業の事務所など市内6カ所を捜索。押収した資料から、伐採された約19ヘクタールのうち約13ヘクタールに関して違法伐採の可能性が浮上した。8月上旬に対象地を現場検証して面積を詳しく調べた結果、約7ヘクタールについて違法伐採の疑いが強まったという。
蕃山などの宮城県内の山林では、東日本大震災後の復旧工事の急増を受け、取引価格が高騰していた土砂が違法に採取された疑惑が出ている。
青葉産業は問題発覚前、自社のホームページに震災の復旧・復興工事用に土砂を提供する趣旨の内容を掲載。蕃山の伐採現場周辺では、通常の3倍以上となる最大幅約10メートルの作業道を造成するなどしていた。
逮捕容疑は2013年5月中旬~6月28日、青葉区茂庭の蕃山で、森林法に基づく届け出を仙台市にしないで約7ヘクタールの樹木を伐採した疑い。大河原署によると、沼田容疑者は「必要な届け出はしている」などと容疑を否認している。
県警は問題発覚後のことし7月中旬、青葉産業の事務所など市内6カ所を捜索。押収した資料から、伐採された約19ヘクタールのうち約13ヘクタールに関して違法伐採の可能性が浮上した。8月上旬に対象地を現場検証して面積を詳しく調べた結果、約7ヘクタールについて違法伐採の疑いが強まったという。
蕃山などの宮城県内の山林では、東日本大震災後の復旧工事の急増を受け、取引価格が高騰していた土砂が違法に採取された疑惑が出ている。
青葉産業は問題発覚前、自社のホームページに震災の復旧・復興工事用に土砂を提供する趣旨の内容を掲載。蕃山の伐採現場周辺では、通常の3倍以上となる最大幅約10メートルの作業道を造成するなどしていた。
事件番号
平成19(わ)149
事件名
自然公園法違反,森林法違反被告事件
裁判年月日
平成20年1月22日
裁判所名・部
釧路地方裁判所 刑事部
主文
被告人を懲役2年6月に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,環境大臣の許可を受けず,かつ,法定の除外事由がないのに,平成1
8年10月中旬ころから同月26日ころまでの間,
第1 保安林及び特別地域に指定された阿寒国立公園内の北海道川上郡(以下省略)
所在の森林において,A等をして,B株式会社所有の同社代表取締役C管理に
係る木竹であるアカダモ等11種合計217本(時価合計約318万9456
円相当)を伐採させて窃取し,もって特別地域内において木竹を伐採するとと
もに,保安林の区域内において森林の産物を窃取し,
第2 特別地域に指定された阿寒国立公園内の同郡(以下省略)所在の森林におい
て,前記A等をして,国所有の財務省管理に係る木竹であるマツ等12種合計
462本(時価合計約1111万1054円相当)を伐採させて窃取し,もっ
て特別地域内において木竹を伐採するとともに,森林においてその産物を窃取
し
たものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
罰条
第1の行為のうち
特別地域内における木竹伐採の点自然公園法70条1号,13条3項2号
保安林区域内の森林窃盗の点森林法198条,197条
第2の行為のうち
特別地域内における木竹伐採の点自然公園法70条1号,13条3項2号
森林窃盗の点森林法197条
科刑上一罪の処理
第1につき刑法54条1項前段,10条(重い森林法違反の罪の刑で処断)
第2につき刑法54条1項前段,10条(重い森林法違反の罪の刑で処断)
刑種の選択
第1,第2につき,それぞれ懲役刑
併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(重い第1の罪の刑に法定
の加重)
(量刑の理由)
本件は,被告人が,自然公園法上の特別地域かつ森林法上の保安林に指定された
民有林及び特別地域に指定された国有林の各木竹を伐採して森林の産物を窃取した
という自然公園法違反及び森林法違反の事案である。
被告人は,事業経営の失敗等によって事業資金や生活費等に窮したため,いわば
金の成る木として本件各森林に着目し,木竹を売却して不正に金員を取得したもの
であるが,その短絡的で自分勝手な動機に酌量の余地はない。被告人は,伐採に係
る適合通知書を不正に町から取得し,一見適法な伐採を装うなど,犯行態様は狡猾
で悪質である。本件各犯行によって時価合計約1430万円もの木竹が伐採されて
いるが,屈斜路湖畔の原生林生い茂る森林が,約3万3322平方メートルもの広
範囲にわたって伐採され無惨な姿をさらし,被告人の親族らが森林の再生に協力す
る意向を示しているとはいえ,その回復には相当の努力と年数が必要であることか
らすれば,その被害結果は真に重大なものがあると言わざるを得ない。民有林所有
者の処罰感情は強く,また地域住民に与えた衝撃と憂慮は計り知れない。このよう
な大規模な自然環境の破壊が,行政機関の監督の間隙を突いて,いともたやすく長
年にわたって行い得たのは驚きを禁じ得ないが,そうであるからといって,犯情の
悪質さが減じられるわけではない。
被告人を懲役2年6月に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,環境大臣の許可を受けず,かつ,法定の除外事由がないのに,平成1
8年10月中旬ころから同月26日ころまでの間,
第1 保安林及び特別地域に指定された阿寒国立公園内の北海道川上郡(以下省略)
所在の森林において,A等をして,B株式会社所有の同社代表取締役C管理に
係る木竹であるアカダモ等11種合計217本(時価合計約318万9456
円相当)を伐採させて窃取し,もって特別地域内において木竹を伐採するとと
もに,保安林の区域内において森林の産物を窃取し,
第2 特別地域に指定された阿寒国立公園内の同郡(以下省略)所在の森林におい
て,前記A等をして,国所有の財務省管理に係る木竹であるマツ等12種合計
462本(時価合計約1111万1054円相当)を伐採させて窃取し,もっ
て特別地域内において木竹を伐採するとともに,森林においてその産物を窃取
し
たものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
罰条
第1の行為のうち
特別地域内における木竹伐採の点自然公園法70条1号,13条3項2号
保安林区域内の森林窃盗の点森林法198条,197条
第2の行為のうち
特別地域内における木竹伐採の点自然公園法70条1号,13条3項2号
森林窃盗の点森林法197条
科刑上一罪の処理
第1につき刑法54条1項前段,10条(重い森林法違反の罪の刑で処断)
第2につき刑法54条1項前段,10条(重い森林法違反の罪の刑で処断)
刑種の選択
第1,第2につき,それぞれ懲役刑
併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(重い第1の罪の刑に法定
の加重)
(量刑の理由)
本件は,被告人が,自然公園法上の特別地域かつ森林法上の保安林に指定された
民有林及び特別地域に指定された国有林の各木竹を伐採して森林の産物を窃取した
という自然公園法違反及び森林法違反の事案である。
被告人は,事業経営の失敗等によって事業資金や生活費等に窮したため,いわば
金の成る木として本件各森林に着目し,木竹を売却して不正に金員を取得したもの
であるが,その短絡的で自分勝手な動機に酌量の余地はない。被告人は,伐採に係
る適合通知書を不正に町から取得し,一見適法な伐採を装うなど,犯行態様は狡猾
で悪質である。本件各犯行によって時価合計約1430万円もの木竹が伐採されて
いるが,屈斜路湖畔の原生林生い茂る森林が,約3万3322平方メートルもの広
範囲にわたって伐採され無惨な姿をさらし,被告人の親族らが森林の再生に協力す
る意向を示しているとはいえ,その回復には相当の努力と年数が必要であることか
らすれば,その被害結果は真に重大なものがあると言わざるを得ない。民有林所有
者の処罰感情は強く,また地域住民に与えた衝撃と憂慮は計り知れない。このよう
な大規模な自然環境の破壊が,行政機関の監督の間隙を突いて,いともたやすく長
年にわたって行い得たのは驚きを禁じ得ないが,そうであるからといって,犯情の
悪質さが減じられるわけではない。
そうすると,被告人の刑事責任は重大であると言わざるを得ず,被告人が最終的
には本件各犯行を認めて反省していること,被告人や親族らが,今後可能な限り森
林の回復に努めることを約束し,関係機関に造林計画書を提出するなどしているこ
と,民有林所有者に対する被害弁償に充てる金員として,●円(金額省略)が供託
されていること,被告人には,道路交通法違反に係る罰金前科1犯のほか前科がな
いこと,被告人が67歳であり,胃静脈瘤,糖尿病等の持病を有することなどの被
告人に有利な事情を斟酌しても,執行を猶予する事案とはいえないが,なお,以上
の諸事情を考慮し,主文掲記の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑懲役3年6月)
平成20年1月22日
釧路地方裁判所刑事部
-------------------------------
事件番号 昭和24(れ)2594
事件名 森林法違反
裁判年月日 昭和25年2月21日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 集刑 第16号561頁
原審裁判所名 札幌高等裁判所
原審事件番号
原審裁判年月日 昭和24年9月12日
判示事項
森林法違反罪の犯意
裁判要旨
森林法第八四條第二號、五號の犯罪の成立に必要な犯意ありというには、被告人が保安林なることを認識し乍らその森林の樹木を許可なく伐採し或いはその伐採した樹木を原料として木炭を製造する事實を認識すれば足り、同法第九三條第二項の犯罪は、保安林なることを認識し乍ら許可なく之を開墾するの事實を認識すれば、同罪の成立に必要な犯意がありというべきである。
参照法条
刑法38條1項,刑法38條3項,森林法84條2號,森林法84條5號,森林法93條2項
全文
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
被告人Aの上告趣意について。
被告人が上告趣意として本件の経過を詳細に述べているのは、原判決の事実認定
に誤りがあることを主張する趣旨と解せられる。しかし事実誤認の主張は適法な上
告理由となり得ないものである。
所論の中には、被告人がその所為を適法な行為であると信ずる旨の主張も見えて
いるが、その理由なきことは間宮弁護人の上告趣意第一点について後に述べるとこ
ろによつておのずから明らかであろう。
本件上告を棄却する。
理 由
被告人Aの上告趣意について。
被告人が上告趣意として本件の経過を詳細に述べているのは、原判決の事実認定
に誤りがあることを主張する趣旨と解せられる。しかし事実誤認の主張は適法な上
告理由となり得ないものである。
所論の中には、被告人がその所為を適法な行為であると信ずる旨の主張も見えて
いるが、その理由なきことは間宮弁護人の上告趣意第一点について後に述べるとこ
ろによつておのずから明らかであろう。
弁護人間宮三男也の上告趣意第一点について。
論旨は結局、被告人はその所為について違法の認識を欠いていたから犯罪の不成
立を来たすという主張に帰する。然し乍ら、原判決に証拠として採用されている第
一審証人B、同C及びDの各証言記載並に農林事務官E作成の被害物件調書(記録
三丁以下)によれば、本件斜里郡a町字bcd番地e事業区f班イ小班六町歩につ
いては、被告人に対し、国有地解放の許可はなかつたものであり、而も昭和二一年
三月以降被告人は再三北海道庁網走支庁宛斜里町役場を通じ右国有地解放許可願書
を提出したけれども、その都度その願書は却下され、且つ又当時斜里営林区署係官
から被告人が入地した本件土地の開墾竝に立木の伐採を禁止する旨の注意を受けた
ことがわかる。そうして森林法八四条二号、五号の犯罪の成立に必要な犯意ありと
いうには、被告人が保安林なることを認識し乍らその森林の樹木を許可なく伐採し
或ひはその伐採した樹木を原料として木炭を製造する事実を認識すれば足り、同法
九三条二項の犯罪は、保安林なることを認識し乍ら許可なく之を開墾するの事実を
認識すれば、同罪の成立に必要な犯意ありというべきである。
してみれば被告人が
本件各犯罪について犯意があつたこと明らかであるから、原判決が被告人の所為を
有罪としたことには、所論のような違法はない。尤も被告人が所論のとおり、本件
土地において製造した木炭の供出に対し、報奨物資の割当を受け、且つ又本件土地
の開墾について開墾助成金又はその地上の住宅建築について資材の交付を受けたと
いう事実は原判決も認めているけれども、それは解放予定地である本件保安林内に
おいて被告人が事実上木炭を製造供出し住宅を建築し、土地を開墾したことに対す
る報奨であり、資材の交付であり、また助成金であつてこれ等の事実があるからと
いつて被告人の本件所為について犯意がなかつたものと做す理由とは為し難く、況
んや被告人の本件所為を適法ならしむるものではない。要するに論旨は原判決の認
定しなかつた事実に基いてその事実認定を攻撃するか、又は刑罰法規の不知を以つ
て犯意を阻却すると做すかの主張であるから採用し難い。
本件各犯罪について犯意があつたこと明らかであるから、原判決が被告人の所為を
有罪としたことには、所論のような違法はない。尤も被告人が所論のとおり、本件
土地において製造した木炭の供出に対し、報奨物資の割当を受け、且つ又本件土地
の開墾について開墾助成金又はその地上の住宅建築について資材の交付を受けたと
いう事実は原判決も認めているけれども、それは解放予定地である本件保安林内に
おいて被告人が事実上木炭を製造供出し住宅を建築し、土地を開墾したことに対す
る報奨であり、資材の交付であり、また助成金であつてこれ等の事実があるからと
いつて被告人の本件所為について犯意がなかつたものと做す理由とは為し難く、況
んや被告人の本件所為を適法ならしむるものではない。要するに論旨は原判決の認
定しなかつた事実に基いてその事実認定を攻撃するか、又は刑罰法規の不知を以つ
て犯意を阻却すると做すかの主張であるから採用し難い。
同弁護人の上告趣意第二点について。
論旨は量刑不当の主張であつて適法な上告理由とならない。
よつて旧刑訴法四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
検察官 橋本乾三関与
昭和二五年二月二一日
最高裁判所第三小法廷
論旨は量刑不当の主張であつて適法な上告理由とならない。
よつて旧刑訴法四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
検察官 橋本乾三関与
昭和二五年二月二一日
最高裁判所第三小法廷
[昭和54年10月23日 大阪高裁 昭52(う)628号 森林法違反被告事件]
【判旨】
被告人らは、和歌山県M郡K町(略)に所在する山林約0.8ヘクタールを共同で開墾して畑に造成することを計画し、昭和四五年一月一三日その開墾準備として、同山林に生育する雑木、ささ、しだ等の雑草等に対して山焼をしたのであるが、同地方は数十日来の晴天続きで付近山野の草木を始め地面の可燃物が著るしく乾燥し、山焼の火やその残り火が風にあおられて飛散して飛火し森林火災を起すおそれがあつたのであるから、山焼を行うにあたつては、草木等の燃焼した箇所及びその周辺に十分放水して残り火を完全に消火した上、これを確認し、もつて森林火災を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、同日午前九時ころから前記気象条件に拘わらず山焼を開始し、前記山林を三区画に分割し第一区画から順次火入れを行ない、同日午後三時ころ、第三区画の火入れの後、同所の燃焼した箇所の残り火の有無の点検・消火を十分に行わず、残り火を完全に消火せずに放置した過失により、同所の残り火の火の粉が折りからの北風にあおられて舞い上がり、保火のままで飛行し、同所の南側から約四、五〇メートル南方のYH所有の雑木林内(OH所有の雑木林との境界付近)に着地して飛火した結果、同日午後六時ころ、火災を発生させ、同所の東南に連なる別表記載のYT他九名所有の森林等合計約7.86ヘクタール(損害額合計約五五九万四、四八〇円相当)を焼燬したものである。
(略)
本件の場合、被告人らは右火入許可をえたのち、万一に備え川辺町消防団員の応援を求め、山焼当日には消防団長以下三名の消防団員が山焼に応援参加して作業に従事したことは前認定のとおりであるばかりでなく、その実施については、事実上主として消防団長の指示に従つて消火撤水を行つたことが認められるけれども、これらの事実があつたからといつて、被告人らが本件山焼の実行主体でなくなるいわれはなく、よつて生じた失火の結果については、各人の過失の有無、程度等に応じた刑事責任を負担すべきは当然であつて、残り火の消火の打ち切りについて右消防団長の指示に従つたからといつて、本件過失責任を免れるものではない。所論は採りえない。
【判旨】
被告人らは、和歌山県M郡K町(略)に所在する山林約0.8ヘクタールを共同で開墾して畑に造成することを計画し、昭和四五年一月一三日その開墾準備として、同山林に生育する雑木、ささ、しだ等の雑草等に対して山焼をしたのであるが、同地方は数十日来の晴天続きで付近山野の草木を始め地面の可燃物が著るしく乾燥し、山焼の火やその残り火が風にあおられて飛散して飛火し森林火災を起すおそれがあつたのであるから、山焼を行うにあたつては、草木等の燃焼した箇所及びその周辺に十分放水して残り火を完全に消火した上、これを確認し、もつて森林火災を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、同日午前九時ころから前記気象条件に拘わらず山焼を開始し、前記山林を三区画に分割し第一区画から順次火入れを行ない、同日午後三時ころ、第三区画の火入れの後、同所の燃焼した箇所の残り火の有無の点検・消火を十分に行わず、残り火を完全に消火せずに放置した過失により、同所の残り火の火の粉が折りからの北風にあおられて舞い上がり、保火のままで飛行し、同所の南側から約四、五〇メートル南方のYH所有の雑木林内(OH所有の雑木林との境界付近)に着地して飛火した結果、同日午後六時ころ、火災を発生させ、同所の東南に連なる別表記載のYT他九名所有の森林等合計約7.86ヘクタール(損害額合計約五五九万四、四八〇円相当)を焼燬したものである。
(略)
本件の場合、被告人らは右火入許可をえたのち、万一に備え川辺町消防団員の応援を求め、山焼当日には消防団長以下三名の消防団員が山焼に応援参加して作業に従事したことは前認定のとおりであるばかりでなく、その実施については、事実上主として消防団長の指示に従つて消火撤水を行つたことが認められるけれども、これらの事実があつたからといつて、被告人らが本件山焼の実行主体でなくなるいわれはなく、よつて生じた失火の結果については、各人の過失の有無、程度等に応じた刑事責任を負担すべきは当然であつて、残り火の消火の打ち切りについて右消防団長の指示に従つたからといつて、本件過失責任を免れるものではない。所論は採りえない。
(裁判例3)
[昭和41年 2月17日 笠岡簡裁 昭40(ろ)11号 森林法違反被告事件]
主 文
被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処する。
(略)
なお、被告人は上記芋畑の中央部寄りと、周辺部との二個所において、前記枯草に点火焚火をなし、その火をいずれも上記過失により延焼させたものである。
(証拠の標目)〈省略〉
さて、思うに、放火ないし失火の罪は(刑法上も、特別法たる森林法上も)、いうまでもなく、法理上いわゆる公共危険罪に属し、(故に講学上抽象的或は具体的=とくに構成要件とされるもの=各危険罪と称せられる)、従つて本件犯罪は、抽象的ないし観念的な公共危険罪と解せられ、主たる被害法益は、公衆の生命・身体・財産が包括的な保護法益だから、単一行為で、同種の罪責により、数個の客体を焼燬しても、単純一罪というべく(大判大正一二・一一・一五参照)、一個の行為で、異種の罪責により、数個の客体を焼燬すれば、包括一罪として、重い焼燬罪の一罪に吸収され(大判昭和九・一一・二四参照)るか、あるいは、包括一罪ではなくて、刑法第五四条第一項前段所定のいわゆる観念的競合として、重い罪で処罰すべきである(大判大正一二・八・二一参照)、というのが、判例の通則とされている。
ところで、本件証拠を検討すると、証人FKの当公判廷でした供述並びに同人(司法警察員)作成に係る実況見分調書の記載に徴すれば、本件発火地点は二個所あることが明らかで、少くとも被告人の失火行為はこの二地点で、各別になされたことが、明確に肯認できるのである。
そうすると、本件失火行為はもとより単一行為ではなく、このように各別に行われた失火行為により、生じた森林失火罪は、法理上当然に上述の公共的法益と、同時に半面では個人の財産的法益をも侵害する行為にほかならないのであるから、純理上はその犯罪個数は単一でなくて、数個だといわなければならない(大判大正七・三・一三参照)。
しかしながら、これらの二個の行為は時と所を殆んど同じくしている限り、物理的には必ずしも身体的の一挙一動であることを要しないのであるから、刑法第五四条第一項前段の『一個の行為』に該当するものと、解するのが相当である
そこで、本件を科刑上の一罪、すなわちいわゆる観念的競合として把握認定し、該当の法条を適用した次第である(後記法令適用の項参照)。
((もつとも、かかる科刑上の一罪とは、上述のように本来は数罪であるものを、科刑上一罪として一括処断するものであつて(最判昭和二三・五・二九参照)、これを本来の一罪とみる説は、当裁判所の左袒しないところである。だから、本件のように同種類の観念的競合は、これを果して観念的競合の一種と認めるべきか否かが、学説上は争われているが、判例はこれを認めている(大判大正六・一一・九参照)。けれども、仔細にこれを考察すれば、実質的には単純一罪とみることと、科刑上において殆んど何ら相違はないが、ただ形式的には考え得ることであるし、このように認めるのが論理に一貫性があり、正鵠である。それで、これを否定する学説は、包括一罪とみるわけで、もとより当裁判所の採用しない見解である。))
[昭和41年 2月17日 笠岡簡裁 昭40(ろ)11号 森林法違反被告事件]
主 文
被告人を罰金二〇、〇〇〇円に処する。
(略)
なお、被告人は上記芋畑の中央部寄りと、周辺部との二個所において、前記枯草に点火焚火をなし、その火をいずれも上記過失により延焼させたものである。
(証拠の標目)〈省略〉
さて、思うに、放火ないし失火の罪は(刑法上も、特別法たる森林法上も)、いうまでもなく、法理上いわゆる公共危険罪に属し、(故に講学上抽象的或は具体的=とくに構成要件とされるもの=各危険罪と称せられる)、従つて本件犯罪は、抽象的ないし観念的な公共危険罪と解せられ、主たる被害法益は、公衆の生命・身体・財産が包括的な保護法益だから、単一行為で、同種の罪責により、数個の客体を焼燬しても、単純一罪というべく(大判大正一二・一一・一五参照)、一個の行為で、異種の罪責により、数個の客体を焼燬すれば、包括一罪として、重い焼燬罪の一罪に吸収され(大判昭和九・一一・二四参照)るか、あるいは、包括一罪ではなくて、刑法第五四条第一項前段所定のいわゆる観念的競合として、重い罪で処罰すべきである(大判大正一二・八・二一参照)、というのが、判例の通則とされている。
ところで、本件証拠を検討すると、証人FKの当公判廷でした供述並びに同人(司法警察員)作成に係る実況見分調書の記載に徴すれば、本件発火地点は二個所あることが明らかで、少くとも被告人の失火行為はこの二地点で、各別になされたことが、明確に肯認できるのである。
そうすると、本件失火行為はもとより単一行為ではなく、このように各別に行われた失火行為により、生じた森林失火罪は、法理上当然に上述の公共的法益と、同時に半面では個人の財産的法益をも侵害する行為にほかならないのであるから、純理上はその犯罪個数は単一でなくて、数個だといわなければならない(大判大正七・三・一三参照)。
しかしながら、これらの二個の行為は時と所を殆んど同じくしている限り、物理的には必ずしも身体的の一挙一動であることを要しないのであるから、刑法第五四条第一項前段の『一個の行為』に該当するものと、解するのが相当である
そこで、本件を科刑上の一罪、すなわちいわゆる観念的競合として把握認定し、該当の法条を適用した次第である(後記法令適用の項参照)。
((もつとも、かかる科刑上の一罪とは、上述のように本来は数罪であるものを、科刑上一罪として一括処断するものであつて(最判昭和二三・五・二九参照)、これを本来の一罪とみる説は、当裁判所の左袒しないところである。だから、本件のように同種類の観念的競合は、これを果して観念的競合の一種と認めるべきか否かが、学説上は争われているが、判例はこれを認めている(大判大正六・一一・九参照)。けれども、仔細にこれを考察すれば、実質的には単純一罪とみることと、科刑上において殆んど何ら相違はないが、ただ形式的には考え得ることであるし、このように認めるのが論理に一貫性があり、正鵠である。それで、これを否定する学説は、包括一罪とみるわけで、もとより当裁判所の採用しない見解である。))